突撃!隣の情報システム部〜夏サミ・セッションレポート編〜
7月29日に、Developerの祭典、「Developers Summit 2015 Summer」(通称:夏サミ)が開催されました。
2012年にスタートしたこちらのイベント。今年のタイトルは「SPEED for Enterprise〜デベロッパーがエンジンとなって企業ビジネスを加速させよう〜」。
スピーディにテクノロジーを活用しビジネスを展開していくのは今やベンチャーだけでなく、エンタープライズも同じ。そしてそのエンジンになりうるのはデベロッパーである…。そんなメッセージが込められています。
3トラックありましたが、多田歩美さん(本田技研工業株式会社)の「エンタープライズ企業がクラウドに適応するために」に参加しました。大企業の情シスエンジニアとして勤める多田さんに、直接お話もお伺いし、セッションレポートとしました。
スパコン向けクラウド適用からスタート
製造業の社内情報システム部門にて活躍する多田さん。HPC/CAEシステム領域にてクラウド利用をスタートします。多種多様な計算内容があり、ユーザからの要求全てを社内リソースでまかなうことは大変困難だったそう。
使ってみようと決意しても、前例がないという壁にぶち当たります。ただそこにこそ「チャレンジがある」と目を輝かせます。
壁を乗り越えるためにやってきたこと
「前例を自分で作る」と前進していく多田さん。大企業の中で、外で、八面六臂の活躍が始まります。その中で課題も見えてきたそう。
・社内への働きかけ、巻き込みをやってきた。社外の情報収集。
-ぺーぺーが頑張ってるんだよ、というアピール→まず知ってもらう!
・現在、クラウドを利用すること自体は「チャレンジ」ではなくなってきているが、課題はある。
-都度対応の状態で、最適化やルール整備が追いついていない状況。技術/契約的な課題もある。
・エンジニアリングシステム領域では、クラウド利用をNGとするライセンスなどが課題。→技術進化やサービス進化により解決していくのでは?
・クラウド「利用」はできているが、最適化やルール整備が追いついていない。
利用と活用の違い
クラウドを「利用」することと「活用」することは違う。理想はまだ先にあると語ります。
・シャドーITを避けるため、クラウドサービス利用効果の最大化・付加価値提供
・IT管理者としての最大のクラウド効果 →理想的な姿には追いついていない
・最適化やルールの改定が進んでいない状態
・クラウド ≠ 常識
-すぐに選べる存在になっていない
未来へ向けて
・どうやってこの「不常識」を「常識」にしていけばいいのか
・最適化やルールの改定を進める、というのは当たり前の話。
・変化のスピードに追従するために
-まずは、現状の状態を正確に把握できているか?
-クラウド利用→最適化をするうえでは様々な発想の転換が必須。
発想の転換を妨げる要因
オンプレとクラウドの比較については「コストに対する考え方」の違いについてのお話がありました。
-オンプレとクラウド、かかる費用で比較している場合、対象の条件が一致しているか?
-オンプレの場合は サーバとかの調達、空調・設備、運用費用
-お金に換算しにくい価値(バリュー)に対する対価を意識できているか?
-調達までのスピード、変化への対応の柔軟さ 同様の機能・サービスを構築する手間
・「変更・変化」に対する感覚
-オンプレ:リース期間、償却期間は変更できない・しない。
-使いきらなかえればならない このためルールはがちがちだったりする
-4-6年に1回の大仕事…社内調整、要件定義などに時間を費やす
-クラウド:変更を重ねていくことが前提。初回のシステム構築はゴールではなく、スタート地点。
-変化するサービスに追従させることでコスト削減やサービス改善をはかる
現状と目指す姿へのギャップ
そして、「変化への正しい理解とスピードある判断が変化への追従を可能にする」と断言します。そしてその実現において 『「個人」の役割は大きい』のだと。
・クラウドは小さく産んで大きく育てることが得意。個の力が大切
・自分がサーバ屋、ネットワーク屋…などをあまり意識しなくてもいい。コンポーネント化されている
「不常識」を「常識」に変えていくために必要なもの
多田さん自身、「クラウドを絶対に使いたい!」という思いでスタートしたのではない。会社の目指す姿、研究者が自由に発想できる環境をつくるためにどうしたらいいか、ということを考えていたという。まずは「やってみよう!」がメッセージ。
・知識=本や誰かから教わって知った知識 + やって知った、実行した知った知識(体験)
-両方合わさってやっと知識と言えるのでは?
-やってみよう!やってみて結果した経験は大切
・「勇気」…理想を追っていくことは難しいが、組織は「個人」の「未来へ進む力」を養う支援を行う
・世の中のキャリアの考え方…今までは組織が個人のキャリアを育ててくれる→今は違う
-できることとして、例えば、同業他社との交流の場をつくる、異業種との交流、コミュニティー活動へのコミットを挙げた。
・新しい情報が入ってこなくなる…
・エコシステムを育てよう…知識の共有の場は大切
-競争ではない「共創出」領域を育てる。枠を超えた知識の共有
まとめ
多田さんにとって「ここ3年間の変化はとても大きかった」のだそう。
「自分の会社のフィロソフィーにそって活動しているつもりだった」が、それを振り返ってみようと思い立ち、創業者である本田宗一郎氏の著書『私の手が語る』について触れます。
技術そのものより、思想が大切だ、と著書の中で述べたという本田氏。自分たちの組織はどこに向かっているのか、自分自身はどこに向かっているのかが大切だ、という言葉でセッションは締めくくられました。多田さんのパワーはその方向を見つめてそして考え抜いているからこそ、生まれるものなのだ−−と感じさせられたセッションでした。
セッションを終えて
今回、セッション終了後に多田さんに直接お話を伺うことができました。すると、「今日の登壇は自分に対するメッセージでもあるんです」との言葉が。
「チャレンジ」「勇気」などの前向きな単語がちりばめられた力強いメッセージは、自身の経験を元に皆に語りかけているように見えました。しかしそれは多田さん自身にも向けられたもの。大企業に所属し、前例がないという状況の中で、個としての動きを最大限に高め、クラウドを活用し、注目された。それでも歩みを止めることは、ないのです。
会社のフィロソフィーを意識しながらも未開の地へチャレンジすることは、容易ではないことと思います。これもまた、「情報システム部」のひとつの姿であり、側面であり、その中の個人、そして組織人—。
最後のトークセッション「Enterprise × Cloud Tech Talks」にも登壇し、キャリアカウンセラーとしてのもうひとつの顔を見せてくれた多田さん。本イベントのテーマ「SPEED for Enterprise」を体現するこのエンジニアから、今後何が生まれ、発信されるのか?今後も目が離せないのは間違いありません!
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